空飛ぶ円盤ブルース

両隣外によるブログです。

雅楽2

前回に続き雅楽の演奏会で気になったことの続き。

○残楽三返(のこりがくさんへん)
 演奏法の一つで、同じ曲を三回繰り返して演奏すること。
 演奏会では越天楽が演奏がこの形式が演奏されたのだが、まず1回目には通常通り全部の楽器が演奏する。
 そして演奏が2回目、3回目と進むにつれ、それぞれの楽器が各々の箇所で演奏を止めていくのだ。
 1回目:100%
 2回目:70%→50%
 3回目:40%→0%
 大まかにはこのようなイメージ。
 ここでも重要なのは聴く側の態度。聴く側は1回目の演奏で旋律を心に留め覚える。
 そして2回目、3回目とそれぞれの楽器が演奏を止めていっても、心の中で旋律を流し続けるのだ。 
 1回目は全員で演奏してくれているので余裕である。
 2回目には徐々に音数が減ってくるが、主メロの篳篥が残っているので心の中で旋律をキープするのは篳篥を追うだけなので簡単だ。
 しかし、3回目の頃には主旋律の篳篥も演奏をしたりしなかったりと、伴奏で残っている琴の中を縫うように演奏をする。
 聴く側の旋律をサポートしつつ、自立を促すような形になる。
 ついに篳篥も演奏を止める。
 まだ心の中で旋律をキープする。
 伴奏の琴だけになる。音の切れ際、残響が特に目立つようになる。
 琴もゆっくりと繊細に、無音に着地する。
 実際に鳴る音はゼロになる。
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 前回の音取に続いてなんとも聴く側の態度が問われる形式だ。
 最後には演奏は終わるのだが、結果的に聴く側の心の中の旋律はその後も鳴り続けるのではないか。
 実際の演奏がだんだんと溶け、聴く側の心の演奏と一体となり、最終的には裏返る。
 というなんとも引きの美学を感じさせるものであった。
 
 この形式って似たものがポップスのライブでもよくある。
 ボーカルがサビでマイクを客に向けて歌わせるあれだ。
 ライブによってはそのまま客に歌わせ続け、演奏もみんな止めてしまって客の声だけで曲を終わることもある。
 コール&レスポンスの発展形だと思うが、雅楽のそれは何とも繊細で感動的なものだった。
 実際には次の演奏が始まるので心の演奏も止まりましたが(笑


 あともう一つ思ったのが琵琶に「サワリ」が無かったことについて。
 雅楽の琵琶は楽琵琶といって「サワリ」が無いんですね。
 Wikipediaによると奈良時代に唐から入ってきた琵琶の形に最も近いそうな。
 元々無かった「サワリ」を後々独自に付け加えるあたりが日本文化的。

 「サワリ」は相当奥が深いと言うかハードコアな物なので、興味を持った方は自身でいろいろと調べて欲しいです。
 門外漢なりに簡単に紹介すると、
 「サワリ」は一部の三味線や琵琶に着いている仕掛けで、振動する弦にわざと楽器の一部が軽く触れるようにして、音をビビらせるもの。
 現代的に言えばディストーション装置であると同時に、ハーモニクスを出す装置。
 元来の西洋楽器には無い装置で、その価値観の違いが垣間見ることができる。
 「古池や蛙飛びこむ水の音」を心地よい音と感じるか、ノイズとして感じるかの違いかと。
 インドのシタールなどにも「ジャワリ」という名前で同じ仕掛けがあります。ビートルズの曲で使われていて有名。
 
 「ビィョョーーーーン」という音。

 確かに「サワリ」の音色は洗練された合奏音楽の雅楽には向いていないようだ。
 琵琶の伝来した時の形と、その後の進化をした琵琶の違いも今まで意識したことが無かったので一つ勉強になった。